ステートメント : BEAUTY, HEALTHY & TEA 日本橋三越 展示に向けて

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Statement

抹茶が日本に伝来した際は薬として紹介された。今から800年前のことである。

宗より抹茶の点茶法を携えて帰国した禅僧、栄西が、喫茶の効能を「喫茶養生記」として書物にまとめ、将軍 源実朝に献上している。茶は長寿の薬とされ、病気の治療、健康維持のためには喫茶が有効であるとされていた。その後、茶の栽培が広がると、抹茶は庶民の間でも養生の仙薬として広がり、寺社仏閣の前には点茶を行う茶屋が並ぶようになった。

現在、日本人にとっての茶は当たり前のものになり、ペットボトルと自動販売機でどこでも買えるようになったが、当時の感覚ではあくまでも健康維持のために飲むものであり、今でいう健康食品・健康飲料的な扱いだったということが分かる。やがて、村田珠光らにより禅の教えとの一体化が進むと、抹茶は健康飲料としてだけではなく、茶を点て飲む行為も含め、心身の機能を充実する触媒として利用されるようになり、千利休に至って、美を表現する芸術として完成する。茶の湯には健康から始まり、美に至るという歴史があったのである。

現代の欧米で、面白い現象が起きている。800年前の日本と同じように、抹茶が健康食品・健康飲料として人気となっているのである。欧米における抹茶はアサイーやチアシードと同じようなスーパーフードとして根付きつつあり、健康維持のために、飲み物としてだけではなく、様々な食べ物にも取り入れられている。抹茶ドリンク専門のカフェもオープンが続いている。

私は、欧米のこの流れが進み、やがて精神性と美が加わり、全く新しい茶の湯が生まれると想像する。日本で起きた変化と同様、数百年をかけて、茶の湯を軸とした一つの文化が形成されると考える。茶の湯を大成した国、日本に暮らす我々は、欧米のこの流れをいち早く日本の茶の湯に取り入れ、新たな茶の湯の形を模索しておくべきだと考える。例えば、懐石の一汁三菜に、欧米の健康食を当てはめてみてはどうか。実験レベルのことでも良い。覚悟を持って挑戦することでのみ、芸術の進化は起きるのである。

失敗するか、成功するかは、分からない。ここで実験した新たな茶の湯は、日本が作り上げ、守って来た文脈とやがて統合され、世界的な茶の湯の文脈が誕生すると考える。それは、西洋のアートとは別の、自らの行為と体験、そして精神の充実までを含んだ、新たな美の鼓動を刻み始めるのである。

2017年8月8日 一品更屋

ステートメント : NDTのステートメント 日本橋三越 展示に向けて

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Statement

抹茶が日本に伝来した頃の茶掛の書といえば、もっぱら中国から伝来した掛け軸だった。

その後、茶禅一味の思想が広まると禅語が主流となり、さらに和歌や花鳥画、手紙までが飾られるようになる。明治期になると仏画が床を飾るようになった。

こうして見て来ると、茶の湯の掛け軸は、いずれもその時代時代における美、しかもただの美ではなく社会思想を写した美であることがわかる。必ずしも古いものばかりを有難がっていたわけではない。古人にしても、どちらかと言うと、積極的に新しい趣向を取り入れていたのだ。

現代における社会思想を写した美とは何であろうか。現代美術がそうだということになるのかもしれないが、現代美術はアートという構造の中で存在の意義があるもので、茶の湯の構造の中に組み入れると、アートと茶の湯、双方の圧力がかかり、結局アートとしては成り立たなくなってしまうことが多い。

その点、グラフィティは違和感なく、茶の湯に組み入れることができる。グラフィティは元々が社会的なメッセージを内包しており、それを読み解くことに面白さがあるが、ストリートから始まった文化のため、現代美術ほどの強固な閉鎖性がない。グラフィティは専門性がなくても表現を行うという覚悟であり、それは侘数寄の思想に近い。茶の湯が「一服一銭」のようにストリート文化として広がった時代があることを考えれば、親和性が高いことも頷ける。

特に日本のグラフィティは欧米のアート文脈とは違い、日本独自の装飾絵画の文脈の影響を受けているように見える。桃山から江戸時代、それまで貴族や武家など、特権階級が有するものだった装飾芸術を、商人を中心とした一般市民のものとして広げたのは琳派であった。そして琳派の美は一般市民の茶の湯の美の基準にもなっていった。日本には、琳派の持つ装飾性やパターンの繰り返しといった特徴を持つライターが多いように見受けられる。言って見れば、日本のグラフィティライターは琳派の後継者と言えるのではなかろうか。

今、社会思想を写した美として面白いのはグラフィティである。ストリートは床の間であり、グラフィティは軸である。そして街は茶室である。

茶の湯者は街へ出よ。ストリートを目指せ。今抹茶を点て、一服するのならば、ストリートで野点をするのが一番面白い。茶の湯とはその時代時代の空気を取り込むものであり、時代そのものなのだから。

2017.08.03 一品更屋

茶会:太宰治 食通茶会 2017年6月16日

料理通信 2017年8月号「自由に愉しむお茶とお菓子」の茶会のススメコーナーで、一品更屋が野点を紹介しています。今回の野点は三鷹の日本酒酒場「ひねもす」さんがお客様とのことで、三鷹にゆかりの深い文豪 太宰治をテーマにした野点を行うことにしました。

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論考:爆発する茶の湯 – 茶の湯は今日の芸術たるか −

芸術は爆発だ!

 

「芸術は爆発だ!」と言ったのは日本の近代芸術の有名人、岡本太郎。「芸術が爆発か?」は私は分からないけれども、岡本太郎は、芸術と芸事は相反するものと考えていた。 “論考:爆発する茶の湯 – 茶の湯は今日の芸術たるか −” の続きを読む